電極材を低負荷で搬送するためのロボットハンド
スペシャルグリッパーSTGGは、繊細なグラファイト層を汚染することなく負極を把持・搬送することができます。
2009年から、各国の政府は環境への負荷を低減する観点から、エレクトロモビリティを推進しています。同時に動力としての二次電池の開発・生産も推進され、産業界と政治が一体となって、開発・生産のためのノウハウの確立と拡大に取り組んでいます。ドイツでは、2021年の「バッテリーフォーラム・ドイツ」において経済的な電池セル生産が可能であることが連邦教育・研究大臣政務官のミヒャエル・マイスター博士によって確認されました。ドイツの自動車メーカーからの協力関係や自社の研究所、量産用の試験工場に関する報告も、これを裏付けています。電気自動車での使用だけでなく、電池は今や日常生活においても欠かせないものになっています。コードレスドライバーから電気自転車、スマートフォンに至るまで、「持ち運べる」電気がない生活は考えられません。また、回生エネルギーの貯蔵など、定置用としての用途も重要です。
どのような用途の電池であっても、電池の生産には細心の注意と精度が要求されます。その製造プロセスで使用される機器にももちろん高度な要求があります。電池メーカーは常に性能と安全性において競争力のある電池を生産しなければならないからです。シュマルツは、繊細なカソード、アノード、セパレータ、パウチセルを優しく搬送するための、かけがえのないツールをお客様にご提案します。
電極材やセパレーターの搬送
2種のペーストと2つの金属箔が、自動車用二次電池のベースとなります。負極は、銅箔の上にグラファイトペーストを塗布したもの、正極は、ニッケル、コバルト、マンガン、リチウムの金属酸化物混合物を塗布したアルミ箔からなります。両面に材料を塗布された箔は、乾燥、検査し、サイズに合わせてカットされます。こうして作られた電極材は、正極と負極の間にセパレータを挟んで交互に重ね、蒸着する工程に進みます。「繊細な金属箔を素早くかつ負荷をかけずに扱うことができるスペシャルグリッパー、STGGをお勧めします。」真空オートメーション・真空ハンドリング事業部長のMaik Fiedler博士はこのように紹介しています。このプロセスで重視されるのは、位置決めの正確さと搬送のスピードです。また、搬送時にグリッパーが跡を残したり、繊細なコーティングを汚染したりしないようにする必要もあります。「私たちのソリューションは、PEEKと呼ばれるものです」とFiedler博士は言います。シュマルツは、化学的耐性の高いPEEK (ポリエーテルエーテルケトン) を使用した、吸着面全体に吸込み穴を開けた多孔プレートをご用意しています。表面は平らで、ワークへかかる面圧を最小限に抑えています。STGGの真空破壊機能は、ワークリリースを高速化し、大容量フローにより電極上の粒子残渣を防ぐこともできます。モーターなどを使用せず、圧縮エアの供給のみで使用できるため、クリーンルームやドライルームにも対応します。
スペシャルグリッパー STGG は薄いセパレータフィルムを分離・成膜するのにも適しています。セパレータは通常、非常に微細で柔軟性のあるプラスチックや不織布から構成されています。陽極と陰極を空間的に分離し、ショートを防止すると同時に、放電時に負極から正極に流れ、充電時に再び正極に戻る正極リチウムイオンを透過させることができる性能も必要になります。「STGGは大流量・低真空圧でワークを保持するため、通気性のある材料も安全に保持します」とFiedler博士は説明します。また、ESDに (静電気放電) に対応した吸着プレートは、静電気を確実に逃がすので、不要な付着物を防ぐことができます。
バッテリーセル・パックの製造
セル積層の準備ができたら、突出した電極を短くし、パウチホイルに詰めます。これで、電解液を注入するためのパウチセルの準備が整いました。「パウチセルは繊細で、どんなことがあってもグリッパーで変形させてはいけません。さらに、アプリケーションによって形状が異なることもあります」とFiedler博士は説明します。軽量グリッパーSLGは、どんな形状にも対応できます。SLGは、ユーザー自身がオンラインで設計したデータをもとに3Dプリンタで出力・製造されるため、短納期での納入が可能です。さらにフィルム向けの真空パッド SFFまたはSFB1シリーズを使用することで、パウチセルのアルミフィルムが吸着時にパッドの中に深く引き込まれることを防止します。SFF / SFB1シリーズは、吸着面にハニカム状のサポート面と、ソフトで非常にフラットなシールリップを採用しています。これにより、パウチセルの表面を変形させることなく、優しく、かつ高い吸着力で吸着・搬送が可能です。
グリッパーの素材、形状、サイズと同様に重要なのが、真空圧です。真空をどこでどのように発生させるかが、搬送のスピードと安定感を決定するカギとなります。「SCPMシリーズの小型真空発生器は、これらの要件をすべて満たしています。コンパクトでありながら、高い吸込量を発揮します」Fiedler博士はこのように説明しています。SCPMシリーズは非常にコンパクトなデザインのため、ロボットのアームなど真空パッドの近くに取り付けることができます。パッドまでの距離が近い分、吸着・ブローオフの応答性をさらに短縮することが可能です。さらにエアセービング機能により、サイクル中のエア消費量の削減だけでなく、電源が落ちた場合でも真空パッド内の真空圧を維持し保持中のバッテリーセルの落下を防止します。「また、真空圧などシステムの監視やワーク検出など、コンディションモニタリング機能を組み込むことができるのも利点です」とFiedler博士は付け加えます。
適切なハンドリングシステムによって、個々のセルはモジュールに入れられ、直列または並列に接続されます。このモジュールをさらに組み合わせることで自動車用の二次電池となるバッテリーパックが製造されています。
円筒型セルの搬送
パウチセルの利点は、フラットなデザインで放熱性に優れていることです。また、汎用性が高く、電池モジュールの容積を最大限に活用することができます。一方で欠点としては外装ケースが軟弱で、陽極、陰極、セパレーターを機械的な影響から保護できないこと、また経年劣化などで膨張する危険性などが挙げられます。そのため、近年では円筒形のハードケースセルが電気自動車や家電製品、電子自転車、工具などによく使われています。「円筒形セルをモジュールとして組み立てるには、ユーザーが自由に設定できるグリッパーが必要です。個々のセルの直径の大きさに応じて、どのような配置で、いくつ把持するのかを決める必要があります」と、Fiedler博士は説明します。「SLGであれば、3Dプリンタで製造されるため、自由度の高いグリッパーを1つからでも簡単に作成することができます。」また、ユーザーは、マークレス素材 HT1製の真空パッドを選ぶことで、電極のある位置でも直接を把持することもできます。HT1は、絶縁体としても機能するため、充電されたセルも安全に配置することが可能です。さらに、コンタミを防ぎつつ高速でのピック&プレースプロセスを実現するためには、大容量の吸込量も重要です。「そこで、一体型真空発生器が効果を発揮します。エジェクターには安全弁がついていて、電源がなくても真空状態を維持できるため、安心して吸着・搬送可能です」とFiedler博士は付け加えます。もし、丸いセルを縦向きに把持する必要がある場合には、シュマルツはマグネットグリッパー SGMを推奨しています。SGMは、永久磁石でワークを把持し、搬送します。「コンパクトかつ軽量でありながら、高い保持力を発揮します」とFiedler博士はその利点を挙げています。電池のケースが強磁性体である限り、この方法は有効です。
自動工程または手動工程による仕上げ
ここまでで金属箔が電極材になり、最後に電極材を組み合わせてバッテリーセルが完成しました。次は、そのセルをモジュール化し電池パックに組み込んで、冷却板や配線、電子回路を完成させます。「ここでは、柔軟性が非常に重要です。バッテリーの形状は、表面構造と同じようにさまざまです」とFiedler博士は説明します。バッテリーモジュールが重たくても、グリッパーで傷つかないようにしなければなりません。汎用グリッパー FQEはモジュール式で、全自動ピック&プレースアプリケーションに理想的です。大面積グリッパー FMP も同様に汎用性があります。シールフォームは、構造化された表面にも柔軟に追従します。エネルギー効率に優れた真空発生装置を内蔵し、低ランニングコストを実現しています。
自動化されていない作業工程では、バキュームリフターJumboFlexのような手動搬送装置が組み立て作業者の負担を軽減します。例えば、冷却モジュールやカバープレートは、最終的にバッテリーハウジングに手作業で取り付けなければなりません。安全操作ユニットは、さらなる安全性を提供します。両手を使ったリリースコンセプトにより、特に繊細なワークピースを安全に設置します。さらに、下降速度も制限することができます。
最終的にはバッテリーパックはリークテストが実施されます。ハウジングと冷却システムに漏れがあってはなりません。バッテリー管理システムには、車種に適した最新のソフトウェアがインストールされ、ネットワークでの最初の充電/放電プロセスが厳重な監視のもとで行われます。配線や電子回路が正常で、バッテリーマネジメントシステムがすべてのサブコンポーネントと同様に機能すれば完成です。注意文やIDタグのラベリングを経て、電池は輸送の準備が整います。「バッテリーが完成するまでには、長く複雑な道のりがあります。私たちは、それぞれの工程を安全に処理する方法を研究し、お客様のためにカスタムメイドのソリューションを開発しています」Fiedler博士はこのように述べています。
低真空で高い吸込量:スペシャルグリッパー STGGは極薄いのセパレータフィルムを扱う際にも使用されます。
軽量グリッパー SLGと真空パッド SFFの組み合わせはパウチセルの搬送に好適です。SFFのハニカム吸着面により、吸込み時にフィルムがハンド内部に引き込まれるのを防止します。
円筒形のリチウムイオン電池は、主に家電製品や電子自転車に使用されています。シュマルツは、数、サイズ、および配置に応じて、個別のエンドエフェクターを開発しています。
エネルギー効率の高い真空発生器を内蔵した汎用グリッパーFQEは、バッテリーセルやバッテリーモジュールのハウジングパーツの搬送に使用されます。
J. シュマルツ社 真空オートメーションおよび真空ハンドリング部門責任者 Maik Fiedler博士
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