真空パッドの理論保持力
真空パッドの理論保持力の計算方法について、よく使用される3つの搬送パターンを例にご説明します。
ポイント:
以下の例では、簡略化された条件を使用しています。よって、搬送プロセス全体の安全性を保つために、最も条件が悪くなる場合を想定して計算を行う必要があります。
安全率 S:
安全率の値はワーク表面の状態によって調整します。ワークが滑らかで通気性がない場合、安全率は少なくとも1.5とします。危険性があるワーク、通気性があるワーク、表面が粗いか表面に凹凸があるワークの場合には、安全率は2.0以上とします。また、加速度や摩擦係数などの条件が未知か、正確に把握できない場合にも、2.0以上の安全率を使用します。
摩擦係数 μ:
摩擦係数 μは、摩擦力と垂直力の関係を表します。真空パッドとワーク間の摩擦係数については、一般的な有効値を示すことはできません。ワーク表面の状態と真空パッドの特性が大きな影響を与えるため、テストを行い正しく決定する必要があります。
参考値として以下をご覧ください。
0.2 ...0.3 | 水や油などが表面に付着した状態 |
0.5 | 木材、金属、ガラス、石 (乾燥状態) |
0.6 | 粗い表面 (乾燥状態) |
油が付着した表面の計算:
水平方向の力が示されていない標準的な真空パッドの場合、推奨される基準値は μ = 0.1~0.3です。より正確な値を得るには、実際のワークを使用してテストを行う必要があります。
乾燥または油が付着した表面で水平方向の力が示されている真空パッドの場合、摩擦係数 μは以下の式で計算できます。
μ = FR / FN
μ = (乾燥または油が付着した表面の水平方向の力)/(吸着力)
算出された値は、それぞれの搬送ケース (I~III) の計算式で使用することができます。
よくある搬送ケース
ケース I - 真空パッドを水平にし、垂直方向にワークを移動する場合
ワーク (この例では、寸法2.5 × 1.25 mの鋼板)をパレットからピックアップし、5 m/s2の加速度で持ち上げます。水平方向の移動はないものとします。
FTH = m × (g + a) × S
FTH = 理論保持力 [N]
m = 質量 [kg]
g = 重力加速度 [9.81 m/s2]
a = ハンドリングシステムの加速度 [m/s2]
S = 安全率 (少なくとも1.5にします。危険性があるワーク、通気性があるワーク、表面が粗いか表面に凹凸があるワークの場合には2.0以上にします)
この例の場合:
FTH = 61.33 kg × (9.81 m/s2 + 5 m/s2) × 1.5
FTH = 1,363 N
ケース II - 真空パッドを水平にし、水平方向にワークを移動する場合
ワーク (寸法2.5 × 1.25 mの鋼板)を垂直方向に持ち上げ、水平方向に移動します。加速度は5 m/s²です。
FTH = m × (g + a ⁄ μ) × S
FTH = 理論保持力 [N]
Fa = 加速力 = m x a
m = 質量 [kg]
g = 重力加速度 [9.81 m/s2]
a = 搬送システムの加速度 [m/s2] (緊急時のワークリリースに注意)
μ = 摩擦係数
S = 安全率
この例の場合:
FTH = 61.33 kg × (9.81 m/s2 + 5 m/s2 ⁄ 0.5) x 1.5
FTH = 1,822 N
ケース III - ワークをピックアップし、真空パッドを垂直にして移動する場合
ワーク (寸法2.5×1.25 mの鋼板)をパレットからピックアップし、回転させながら 5 m/s2の加速度で移動します。
FTH = (m ⁄ μ) × (g + a) × S
FTH = 理論保持力 [N]
m = 質量 [kg]
g = 重力加速度 [9.81 m/s2]
a = 搬送システムの加速度 [m/s2] (緊急時のワークリリースに注意)
μ = 摩擦係数
S = 安全率
この例の場合:
FTH = (61.33 kg ⁄ 0.5) x (9.81 m/s2 + 5 m/s2) x 2
FTH = 3,633 N
ケース I~IIIの比較:
今回取り上げた例の場合、必要な作業はワークをパレットから持ち上げ、横方向に移動し、マシニングセンタに位置決めするというものです。そのためケース IIIのような回転運動はなく、ケース IIだけを考慮する必要があります。
この場合、理論上の最大保持力 (FTH) は1,822 Nです。この力はワークの水平搬送時、真空パッドに作用します。以下、安全なシステムの構成に向け、この値に基づいて計算を進めます。